事件の捜査で、現場などに残された髪の毛が重要な証拠になることがある。その髪の毛を調べれば、それがいったい誰のものか、かなりのところまで識別がつくからだ。また、犯人がどんなに注意していても、ほんの数本の髪の毛まで、現場に残さぬようにすることは非常に難しいだろう。たとえば、一九七一年に起こった連続強姦事件の犯人・大久保清の場合、犯行に使ったマッダ・クーペの車内から二十人余りに及ぶ数の女性の頭髪、陰毛が見つかったことが自供に追い込む重要な証拠となっている。警察はこの髪の毛を、家出人捜索願いが出されている若い女性の毛髪と照合し、さらに犠牲者として判明した人の家から採取した頭髪、体毛、陰毛と照合していったという。彼が車に乗せた女性は五十余人、殺した女性は八人にのぼる。まさに可能性をひとつひとつつぶしてゆく地道な作業の成果であったわけだ。最初に事件の捜査に毛が用いられたのは、第一次大戦後のドイツでだった。一九一八年ごろのことである。当時のドイツでは食糧事情がひどく悪化していた。当然肉類も不足し、犬やら猫やらの肉を混ぜた肉が出回りはじめた。「肉の味がおかしい」「なにか混ぜ物があるのではないか」という声が市民からあがることになる。
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