行灯の光よりも明るく照らす特別な照明器具だった。その高級照明器具を自分のすぐそばに置いたのだ。すると、花魁の姿が薄暗い部屋に明るく照らし出される。花魁の影は客の目の前に大きく神秘的に浮かび上がり、炎とともに妖しくゆらめく。花魁の顔にはろうそくのオレンジ色の光によって自然のチークがほんのりと施され、炎のゆらぎによって目に潤いと色気が加わった。ひたすら黙っているその顔は、ろうそくのゆらめきで艶を増しているようにも見えたのだ。この世のものとも思えない艶やかで神秘的な姿に客は胸を高ぶらせ、「あの表情は、自分と床をともにしたいと訴えているに違いない」などと、夢心地に想像をふくらませる。この顔合わせのあとは、大抵の客は花魁への想いがつのるばかり。実は、このとき花魁は客の品定めを行っているだけなのだが、客に夢を見させるために、自分を神秘的に見せる演出を行っているのだ。ちなみに、この時点で花魁がその客の品、振る舞いや性格が自分にふさわしくないと判断すると、その客は失格。その花魁とはもう会えないのだ。気に入ってもらうためには、品も必要。金も必要。たくさんの芸者を呼んで派手に遊び、財力を示すことも大切だった。1768年(明和5年)に刊行された酔郷散人の『吉原大全』によると「心さっぱりとしていてイヤミなく、明るくお洒落で洗練され、人品高上で風流で功をあせらず、たっぷり用意した金をおしみなく遊びに使い切る」人物が最高の通人だという。それができなければ野暮とよばれても仕方なかった時代。最高級の女性を相手にするには、客もそれ相応の人でなければならなかったのである。2回目一「裏を返す」とよばれていた。この裏を返すとは花魁に客が付く(指名される)と店の木札(名を書いた木の札)を裏返すことからもきている。少々会話を楽しめるようになる。花魁は、初会より少し近寄ってくるが、基本的には初会と同じ状況。3回目一「馴染み」これまでとはうって変わって、花魁が打ち解けてくる。客としてやっと認められた証拠として、客の名前の入った膳や箸が用意される。これは、仮の夫婦になるという意味。ただし、このときもご祝儀として莫大な馴染み金を支払う必要があった。通常は、この3回目で花魁の部屋へと案内され、やっと床入れ。想いを遂げられるのだ。しかし、これでも想いを遂げられないケースもあった。花魁は、気に入らない客には金を積まれても肌を許さなかったからだ。3回目に馴染みの客として呼び出しをかけても応じないこともあったり、呼び出しに応じても肌を許さず振り続けることもあったという。これでは商売にならないではないかと思うかもしれないが、このカンタンには落ちない花魁のプライドが、かえって男性の恋心を燃え上がらせたようだ。高嶺の花に挑み続ける挑戦者は後を絶たなかったという。モテ顔と豊かな表情を作り出す光のゆらぎ効果花魁の女っぷりを上げていたのは、ろうそくの光だった。実は、男女問わず現代でもわたしたちの男っぷり、女っぷりを上げる手助けをしてくれるものも、この光だ。