ターミナル前の広場を見まわしてもバスは一台もなかった。どうも丹東の街へはタクシーしかないらしい。何人ものタクシー運転手に囲まれ、値切り合戦がはじまる。相場がわからないが、はじめ運転手たちが七十元と口にしたので、半値近い四十元といってみた。「丹東までは四十五キロもあるんだよ。そんな値段じゃ乗せられないね」といった表情で何人かの運転手が去っていく。しかし数人が残り、そこから値段をつりあげようとする。結局、背の低い小太りの男と話がついた。
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寒い戸外で待っていたのか、頬がほんのり赤いその男が、紙に「50」という数字を書いたからだった。僕らはターミナル前に停められた車に向かった。すると運転手は「ここで座って待っていろ」というそぶりで、ターミナルに向けて躍を返したのだった。交渉が成立したとき、てっきり僕とH君ふたりで一台の値段かと思っていたが、中国人がやることはそんなに悠長ではなかった。ここのタクシーは相乗りと決まっているようだった。だが、ターミナル前の広場で見ていると、大きな荷物を抱えた運び屋が、ひとりで一台のタクシーに乗って丹東に向かっている。しだいに状況が見えてくる。僕は運賃を値切ったが、そこで合意した値段は、相乗りでの価格だったということらしい。僕は運賃が三割ほど安くなったことに満足していたが、運転手たちのほうが一枚上手だった。僕らはこれから、この名うての中国人たちと渡り合っていかなくてはいけないようだった。